15)「力持ち過ぎる…」事件
バァちゃんは、昔はふくよかだった。
母の結婚式のときの写真をみると、丸顔に丸い縁のめがね。
ぽっちゃりした感じのバァちゃんがそこにいた。
今でこそ、少食になったけど、わたしが大学生の頃は、私より食べていた。
それなのに、年齢のせいか、徐々にやせてきて、すっかり骨と皮…。
あるとき、温泉に誘っても、いい返事をしないので、なぜか理由を聞いたら、
「こんな、しわくちゃな体を、他の人に見られたくない…。」と真顔で言う。
しかし、細くて、ちっちゃなバァちゃんは、力持ち(笑)。
バァちゃんちの庭の軒先に、私の車の冬用タイヤを置かせてもらっていたのだが、
時々、位置が変わっているのだ。
1本って20kgくらいはあるのかなぁ?
それを4本、ご丁寧に動かしてくださる…。
重い鉢植えも、木の棚も、机も、桐のたんすも、なんでも動かしてしまう。
そんなバァちゃんだけど、お風呂になかなか入ってくれなくなったり、お掃除が億劫になったり。
いろいろ困ることも増えてきた。
そこで、要介護度1という判定をいただき、バァちゃんから、ひととき開放してもらおうとヘルパーさんを頼むことにした。
母が病院などに行くためだからとお願いして、いやがるバァちゃんを説得した。
いずれ、介護がいろいろ必要となるときに備えて、ヘルパーさんに慣れてもらうため、今から準備なのだ。
すでにバァちゃんは洋式トイレを導入し、おふとんではなく、ベッド生活。
かなり進歩している方だろう。
ただ困るのは、トイレと寝室が離れていること。
そして、寝室が北側で真冬には0℃まで下がり、そんな部屋でバァちゃんが真っ裸で着替えをしているということ。
そこで、ヘルパーさんが来てくれたら、お掃除をしてもらって、北の寝室から、対角線上にある南のお茶の間にベッドを移してもらおうと、バァちゃんにもちかけてみた。
「みんなに見られるから…。」
確かに、玄関の隣の部屋だが、障子を閉めればいいことだし、なにより日当たりがいい。
押入れもあるから、ここに服を持ってくれば一部屋で用が済む。
しかもトイレがすぐソバ。
しかし、しぶりまくるバァちゃん。
う~ん、これは持久戦か…。
徐々に説得していくしかない。
そんな作戦を立てつつ、ヘルパーさん訪問前日を控えた朝、バァちゃんがごはんを食べながら言った。
「昨日、部屋の電気がつかなくなって、寒いし、見えないし、困ったわ。」
「じゃぁ、ごはん食べたら、見に行ってあげるよ。」
そう言って、食後にバァちゃんちに行ってみると…。
南のお茶の間に、寝室にあったはずのベッドがドッカンと置いてある。
……。
バァちゃん、いつベッドを動かしたのっ!!!
しかも、一人っきりで…。
つまり、バァちゃんは、北の寝室から南のお茶の間まで、夜中にズルズルとベッドをひきずり移動させたらしいのである。
そのとき、お茶の間の入り口のすぐ上にあるブレーカーにベッドをぶつけたため、ブレーカーが落ちて、電気がつかなくなったのだ。
バァちゃん、頼むよぉ。
その仕事は、ヘルパーさんと一緒にやるはずだったのに…。
バァちゃんの理論では、よその人が来る前に、自分できちんと掃除を済ませてしまおう!ということだったらしい。
これで、要介護度を下げられる人が、結構いるらしいということをあとで聞き、すでに認定が済んでてよかった、と胸をなでおろした、母とわたしだった。

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